5月1日、新元号「令和」がスタートし、新天皇即位を祝う一般参賀14万人の人出や全国各地の祝賀イベントなど、歓迎ムード一色の報道がテレビ各局で流れました。世界平和の希求、美しい心と文化の発展を願い「BeautifulHarmony(美の調和)」と英訳されて海外に広く紹介されました。日本政府観光局(JNTO)は、平成30年の訪日外国人旅行者数を3119万人と発表しており、改正出入国管理法施行により外国人労働者受入も始まる中で、我が国の国際化はこれまでにないスピードで量的にも質的にも拡大する様相を呈しています。こうした社会環境の変化に対して、学校教育もグローバル人材の育成を急務として、外国語教育の充実や確かな学力の定着とともに、思考力・判断力・表現力を伸ばす教育改革に国を挙げて取り組んでいるところであります。しかし、2018年10月から11月に実施された「第54回学生生活実態調査の概要報告」によりますと、大学生の53.1%が読書時間ゼロという調査結果になり、若者の活字離れは大きな問題となり、外国語教育の前に母国語を理解する力の育成が必要であるとの声が高まっているのが現状です。その原因としてスマホの普及による操作時間の多さを挙げる意見も聞かれますが、現時点では明確な因果関係は認められないとされているようです…が、限られた生活時間の中で、読書に充当する時間が減少する一因になりつつあることは否めないのではないかと考えざるを得ません。

 

「人は読書で磨かれる」とは、元中華人民共和国全権大使で伊藤忠商事株式会社元社長の丹羽宇一郎氏が自著「仕事と心の流儀」の中で読書の必要性を強く訴えた言葉です。ニューヨーク勤務から帰国した彼は、わざわざ都心から出来るだけ遠い始発駅のある土地に家を建て、電車での往復時間を読書に充て、座って本を読むための環境を求めたと言います。その後、路線の延長で目論見ははずれたようですが。彼は著書の中で、「読書を通じて世の中を洞察する力が養われ、世間の常識や自分ではできない経験に基づく見識を持つことができる。また、自分はこんなことも知らないのか、という自分の無知を知ることができる。読書の効用を挙げればキリがない。」と喝破し、ネット情報等では得られない真実を見極める能力が身に付くとも述べています。年齢や社会的地位等の変化により、求める知識やレベルが変わるため、次々に読んでは本を処分するのだそうです。そして、1冊の本の中に素晴らしい言葉や発想のヒントがあればすぐにメモを取り、ファイルすることで大きな財産になったと言います。丹羽氏はこうした読書の形態を20年以上続けているそうですが、これは私も同様の事をやはり20年以上続けてきたことでもあり、共感を持って氏の本を読み進めました。

 

 他人の意見を聞きながら自分なりの考えをまとめ、的確なタイミングで理路整然と意見を述べ、周囲の理解を得ていく。これからの時代が必要とするスマートな魅力的人材のあるべき姿でもあると考えます。読書によって得られる豊富な知識、バーチャル体験、論理的思考、共感や確信など、感性や人間性が磨かれることにつながります。「人は読書によって磨かれる。」「人は仕事によって磨かれる。」氏が著書の中で語る言葉には、体験と実績を背景にした重さと力強さを感じずにはいられません。現代に生きる我々にとって、日常生活に不可欠な存在となったICT機器は、益々その機能を充実し活用する機会や時間が増加することでありましょう。そのような中で、いかに読書の時間を確保し有益な情報を得ていくかは、正に「自分を磨く努力の姿勢」にかかっているとも言えそうです。


校長 松田 清孝