戦国時代の武将などに関心を持ち、時代小説や史跡巡りなどを好む、歴史好きな女性を「歴女」と呼ぶようになって久しく、最近は刀剣鑑賞を目的に各地の美術館や神社を訪れ、刀剣の美しさを堪能し、関係する書籍を購入する女性のことを「刀剣女子」と呼ぶ新語も生まれました。
戦の時代は武器として重用された刀が、戦のない時代に入ると、鍛練された精神性や美術的価値を高く評価され、今や女性の心まで捉えているのです。
若い頃から刀剣に関心を持つ私は、博物館や展示会に何度も足を運びましたが、最近は女性の入館者が圧倒的に多く、しかも若い女性が真剣に(洒落ではありませんが)鑑賞する姿に、仲間意識が湧く一方で、時代の変化に驚きを隠せない面も感じています。
ともあれ、男女の枠を超えて、趣味や教養の一端として歴史や刀の芸術性に親しむことは、人生を豊かに生きる術(すべ)として、素晴らしいことだと思います。

さて、この刀に因(ちな)む文化が現代にも生きていることには、普段あまり意識されないと思いますが、良くチェックしてみますと興味深いことが分かってきます。
日本が世界の独立した国として承認している国の数は196か国とされていますが、このうち自動車が左側通行をしている国は日本やイギリス、オーストラリアをはじめ55か国とされています。
つまり7割以上の国々が自動車は右側通行なのです。
江戸時代、道路の通行が左側とされていた資料が現存すると知り驚きました。
いつ刀を抜くかわからない危険な状況では、敵を利き手である右側に置くことが戦いやすいため、左側を通行したという説や、広くない当時の道路を右側通行すると、時に互いの刀の鞘(さや)が当たり喧嘩になる恐れがあるため、それを防ぐために左側通行のルールが定められたとする説で、明治以降、馬車や車に適用されたというものです。
世界の多くの国が中世まで左側通行でしたが、ナポレオンにより征服された国々では、左利きのナポレオンがサーベルを抜きやすい右側通行を命じたという説や、馬車の御者が座る位置で操作しやすい右側通行になったとの説もあります。
確かに、イギリスやオーストラリア、アジアなどで、フランスの支配下にならなかった国は左側通行ですが、その真偽には決定力が乏しく憶測の域を出ない状況です。
また、刀に関わる語句は古の時代から今日まで、日常生活で数多く使われています。
下の刀にまつわる語句をどこまで理解しているか確認してみると面白いでしょう。
① 土壇場:罪人を斬首、試し切りする土盛の刑場、最後の場、追い詰められた場面
② 反りが合う:刀の反りと鞘(さや)の反りがぴったり合い、気が合うことをさす
③ 鞘当て:自分の刀をわざと相手の大切な刀の鞘に当て、きっかけを作ること
④ 切羽(せっぱ)詰まる:鍔(つば)を固定する切羽が固くて動かない、身動きできない
⑤ 鍔(つば)ぜりあい:刀の鍔の部分で競り合う、拮抗している状況
⑥ 鎬(しのぎ)を削る:刀の側面の鎬が削れるほどに激しく競っている状況
⑦ 焼き入れ:鍛錬中の鋼を赤く熱した後に水や油で冷やすことで強靭な刀になる
⑧ 元の鞘に収まる:意見が合わない状況になったものが、元の最良の状況に戻ること
⑨ 単刀直入:一人(一振りの刀)で敵陣に切り込む、前置きなしに本題に入ること
⑩ 相槌を打つ:師匠の打つ槌に合わせて弟子が調子を合わせて打つ、相手に合わせる
その他、⑪一刀両断⑫抜き打ち⑬焼きが回る⑭焼きが甘い⑮ふところ刀
いかがでしたか。刀に関する言葉の多さ、古き時代から現代に受け継がれる文化や生活の知恵など、歴史に学ぶことは数多くあります。
それらの一つひとつに歴史的背景があり、それを知ることで新たな興味が湧く。歴史に学ぶ楽しさがそこにあると思います。
中高生は吸収力の高い学びの絶好機。興味を持ったら徹底的に挑戦してみましょう。

校長 松田 清孝