長引く臨時休業は、私の45年間に及ぶ教職生活で初めての経験であり、厳しく苦しい日々となっています。ましてや、私より若い教職員や生徒の皆さんにとっては、当然予想もしなかった辛い初の体験になっている筈であります。学校は生徒がいてこその「学びの場」であり、用意された校舎や体育館、グラウンド は生徒達に使われて、初めてその存在意義を果たせるものであると考えます。2 か月以上にわたって校内に生徒の活気ある笑顔や賑わいが見られない光景など、教職に就いて以来想像したこともありませんでした。年間で最長となる夏季休業中でも、毎日補講や自学自習に来る生徒、部活動に全力で取り組む元気な生徒で溢れ、自分の高校時代を思い出しながら「頑張れよ」と声をかける幸せを毎日のように実感したものです。その生徒がこの2か月間一人もいないのです。
こんな寂しく、空しい思いをしたことはありませんでした。荏原高校は、3年前から全ての教職員を対象に、ICT機器活用の一日がかりの半ば強制的な悉皆(しっかい)研修を重ねてきました。全ての先生が同じようにiPadを使って生徒と双方向の授業を実施し、基本的なプログラミングや動画作成技術の習得により、教材作成やデータを共有し合い、個人情報等を高い精度で管理できる実態を評価され、都内200校を超す私立高校で初となる「学校情報化優良校」認定校となりました。その後数か月で新型コロナ感染症拡大による緊急事態宣言発令、そして今回の臨時休業を迎えることになったのです。新入生には入学直後にiPadを配り、教員の指導の下で初期設定やパスワード設定を行い授業や部活動、家庭で使用を開始する予定でしたが登校できない状況となり、用意された400台近いiPadを教員が手分けして初期設定し、梱包して宅配便で届ける作業を行いました。外出自粛要請の中で全教員が出勤しての作業となりました。リスクを顧みもせず、ただひたすら一日でも早く1 年生にiPadを届け、顔を見ながら授業を始めたい。そんな必死の思いが先生方から伝わり、涙が出る思いで私は作業を見守りました。そんな団結力が「荏原」にはあるのです。4月半ばに宅配が完了し、大きなトラブルもなく全校生徒を対象とした在宅でのホー ムルームや面談、そしてオンライン授業が始まり現在も継続中であります。1年生は入学式も開催できない状況で、画像を通してHR担任や教科の先生と教育活動を実施しています。手際のよい対応を高く評価したいと思います。生徒の適応能力の高さもさることながら、先生方も厳しい環境の中で大きな変化を見せてくれています。
長きにわたる私の教職人生の中で、学校教育がここまで進化し変化する現実を現職として体験できたことに、驚きと感謝の念を禁じ得ません。時代を経れば変化することは理解していても、逆境の中においてはスピード感や変化率が加速度的になり、「逆境が人を育て賢く強くする」実例を見た思いがします。治療薬やワクチンの開発にはまだ一定の時間がかかりそうでありますが、既存の治療薬の効果が確認され認可されるなど、収束への光明は見られています。学校が再開されても、ウィルスとの共存を念頭に感染の第2波を防止し、賢く強い「新しい生活様式」を確立して自らの命を守る能力を身に付けて行かなくてはなりません。令和2年度は未曽有の緊急事態でスタートしましたが、心を一つにしてこの苦難を乗り越え、明るく楽しい日々を迎えることを楽しみにしながら今を頑張り抜きましょう。