令和2年(2020年)7月24日に新国立競技場で東京オリンピックの開会式が開催されるまで、11月1日現在で266日前となっています。思い起こせば、6年前の2013年9月にアルゼンチン・ブエノスアイレスで開催されたIOC(国際オリンピック委員会)の招致活動プレゼンテーションで、滝川クリステルさんが発した「お・も・て・な・し」のフレーズは日本語の心地よい響きを世界に発信し、好印象を与えたと言っても過言ではないと思います。その意味で、東京開催決定は日本の安全性や競技運営能力に加えて「日本の心」も大きな魅力として評価されたものと私は解釈しています。

 

今年はワールドカップラグビーが日本で開催され、日本チーム史上初のベスト8進出で世界の強豪の仲間入りを果たし、熱狂的なファンはもとより、これまでラグビーに関心の薄かった人までが大声援を送る驚異的な盛り上がりを見せました。応援のため来日される外国人の方も数多く、会場地に移動する日は新幹線が満席状態になり、職務と帰省で月に数回は新幹線を利用する私にとって、大会期間中は指定席を確保するのが大変な状況が続きました。この新幹線、実は訪日される海外の方には人気が高く、スタイルが良い、時間が正確、速い、静か、揺れない、そして何より座席や室内がとても綺麗だということで、列車の到着時にスマホで自撮りをする人や快適な時間を満喫する光景が数多く見られます。新幹線客室の清掃については、鉄道整備会社である「T社」が請け負っていると報道されていますが、その清掃の徹底ぶりと手際よい作業は海外でも有名で、「新幹線7分間の奇跡」とも言われ、海外から視察団が訪れたり、ホームで見ている訪日客から拍手が起こると言われるほどに注目を集めているのです。私は過去に何度もその清掃作業の様子を見て感銘を受けたものです。列車が到着する直前に1チーム22人がホームで配置につき、降車するお客様に礼をし、車内に入るとあっという間に座席の向きを変え、ヘッドカバーを見事な手さばきで回収し、次に新しいカバーを設置していきます。その後、座席をブラシで掃きゴミや汚れを素早く確認して手当して作業を終了します。作業完了までに許容される時間は7分。何という手練(てだ)れの「スゴ技」か。作業員の方々は「自分たちはお客様の旅を盛り上げるキャストである。」と自負しておられるのだそうです。つまり、単なる清掃作業員なのではないというプロ意識の強さが、新幹線を利用するお客様に満足していたたけるサービスを支えていることになるのでしょうか。自分の職務に高いプライドを持って専念出来ることは素晴らしいことだと思います。新幹線は今日も走り続けています。数分おきに出発する新幹線を見ながら、そして新幹線の座席に座りながら、私はいつも「新幹線7分間の奇跡」を想い出し、きょうも綺麗な車両に座らせていただくという、謙虚な気持ちになる自分に気付きます。清掃が徹底された場所を汚すことは良心がとがめます。もしかしたら、清掃員の皆さんの誠意が乗客に伝わり、新幹線の車内が常に綺麗に保たれているのかも知れません。

 

国際試合で日本人サポーターがゴミを持ち帰る、災害時に整然と物資の支給を待つ、列車に乗る時も整列して順番を守るなど、相手を思いやる文化が「日本の心」として根付いているように思えてなりません。それこそがホスピタリティの原点だと思います。来年に迫った東京オリンピック、パラリンピックでは、日本の「お・も・て・な・し」を「新幹線の7分間の奇跡」に劣らない、様々な形で世界に情報発信したいものです。


校長 松田 清孝