9月に入り少しずつ過ごしやすい気候になって来ました。「熱中症」報道も影を潜めつつありますが、まだ油断はできません。全国でゲリラ豪雨が発生しておりますが、被災者の皆様には心からお見舞いを申し上げ、一日も早い復旧復興をお祈りいたします。一方で、災害現場で対応にあたる救急隊員の皆様には、心身への負担や危険も大きくなっているのではないかと思えてなりません。東京都消防庁が発表した平成30年度の救急出場(出動)件数は、前年の78万5184件から3万2916件増加(4.2%増)の81万8100件であったということです。これは、1日当たり2241件で、何と「39秒に1回」の救急出場(出動)となります。緊急出場(出動)要請があってから救急隊が現場に到着するまでの時間は、前年平均より17秒早くなり、平均で7分02秒と報告されています。隊員の日々の訓練や、市街地整備、通行車両の協力なども影響したものと考えます。
9月5日(木)早朝のテレビ番組で「第48回全国消防救助技術大会」(岡山大会)の特集を見た私は、救急隊(レスキュー隊)のスゴ技に目が釘付けとなりました。隊員が協力して高い壁を難なく飛び越え、狭いトンネルの先で倒れている被災者をロープで縛って連れ戻すコンテスト等では技術と時間が競われ、人命救助に携わるプロの技術と鍛え抜かれた身体能力の高さに、我を忘れて見入ってしまい感動を覚えました。人の命を救うには、同時に自らの命をも危険にさらす覚悟が必要になる時があります。狭い洞窟や深い穴に落ちた子供を救出する場面などを見ますと、閉所恐怖症の傾向がある私はそのシーンを見ただけでも息苦しく感じますが、果敢にも命綱を付け逆さまになって深い暗闇に向かう救急隊員を見ると、何故か神様のように思えてしまいます。
兄弟校の日本体育大学は5学部 9学科を有する「身体にまつわる文化と科学の総合大学」でありますが、学部の一つである「保健医療学部」には「整復医療学科」と「救急医療学科」が併設されています。荏原高校からは令和元年度に過去最多の116名が日体大に進学し、その中には救急医療学科で救急救命士を目指す生徒も含まれています。急病や事故、或いは災害現場で、生命の不安や痛み、苦しみに襲われている人々を少しでも早く救出するため、日々使命感を持って心身を鍛え、技を磨き、世のため人のために役立つことで、社会から信頼され感謝されるレスキュー隊員に育ってほしいと願っています。また、本校には部活動に「ライフセービング部」があり、ジュニアの全国大会では連続で日本一に輝いています。我が国は四方を海に囲まれた海洋国家であり、長い海岸線には多くの遊泳客で賑わう海水浴場が点在しています。しかし、毎年水の犠牲になる死亡事故も多発し、正に「ライフセーブ」が最も重要視されなくてはならない地勢を持つ国でもあるのです。そこで私は校長として「単に順位を競うだけの部活動ではなく、夏休みに一日でも近 隣の海水浴場で、事故から海水浴客を守るお手伝いをボランティアで行い、社会に貢献してほしい。」と顧問教師にお願いし、実践してもらっています。
学校の部活動で身に付けた知識や技術、そして安心安全への強い思いを実社会に活かすことは、本校が目指す「求めて学び、耐えて鍛え、学びて之を活かす」教育理念の具現化に他なりません。さらに本校には、通学途上で心肺停止になったお年寄りに心肺蘇生法を施し、一命を取り留めたことで「消防総監感謝状」を受けた生徒が3人おります。「救急救命の尊さ」を生徒達が実感し、勇気と自信を持って対応できるよう、毎年多くの生徒が上級の救急救命講習を受講し資格取得にチャレンジしています。人の命の尊さをこれからも生徒たちに意識させていきたいと思った防災月でした。
校長 松田 清孝