5月には「令和」の元号がスタートします。このブログも4月号で平成を終えます。4月10日、平成最後の入学式を厳粛な雰囲気の中で、無事終えることができました。肌寒い小雨の天気でありましたが、寒暖を繰り返す強い花冷えの気候が奏功し、満開の桜を長期間持続させてくれ、希望に満ちた新入生を明るく迎えてくれました。松浪健四郎理事長の訓示で、砂漠の地アフガニスタンでの生活の経験から、雨は天の恵みであり、何事も捉え方で価値は変わるとご示唆いただきました。その訓示をお聞きして、人の生きる道を水に例えた黒田如水の「水五訓」を思い起こしました。僭越(せんえつ)ながらご紹介しますと、①自ら活動して他を動かしむるは水なり、②常に自己の進路を求めて止(や)まざるは水なり、③障害にあい激しくその勢力を百倍しうるは水なり、④自ら潔(いさぎよ)うして他の汚れを洗い、清濁併せ容るるの量あるは水なり、⑤洋々として大洋を充たし発しては蒸気となり雲となり、雨となり雪と変じ霞(かすみ)と化し~鏡となりてもその性を失わざるは水なり」。難しい表現もありますが、簡単に言えば、水は世のため人のために役立ってもその報いは求めず、形は変えても元の性質を失うことなく己の進むべき方向に力強く突き進む、という人生訓になっております。戦国の世に豊臣秀吉の軍師として活躍した如水の教えは、今の世にも十分通ずる輝きを放っています。

 

入学式では、元気な返事と高い集中力で臨む新入生の姿勢に頼もしさを感じました。初心を忘れず、健やかに夢の実現にチャレンジしてほしい。そんな親心を抱きながら、世に有為な人材を輩出する使命を持つ教職の重責を、改めて認識した次第です。人を育てるといえば、プロ野球北海道日本ハムファイターズの栗山英樹監督が共著「育てる力」の中で、大谷翔平、中田翔、清宮幸太郎といった日本の至宝ともいえる逸材を育てるため、渋沢栄一著「論語と算盤」を片時も離さず持ち歩き、「勝てるチーム」「勝てる選手」を育成するための指南書として活用したと紹介しています。
渋沢栄一は江戸末期から昭和を生き抜いた明治新政府の役人で、現在の日本を代表する銀行や企業数百社の育成に貢献し「日本資本主義の父」と称され、かの経営学者ピーター・ドラッカーをして「渋沢の右に出る者はいない」と言わしめた実業家であります。2024年には20年ぶりに紙幣が刷新され、新1万円札に渋沢栄一が選ばれています。論語は孔子の弟子たちが編纂した「孔子の教え」であり道徳を意味し、算盤は経済を意味しています。誠実な振る舞いや思いやりと、自分だけの利益追求でなく、他の利益を優先する渋沢の理念を、企業だけでなくプロ野球のチームさらに選手としても身に付けさせる必要性を栗山氏は強く説いているのです。選手の人格や資質を尊重する栗山監督は、大谷選手を獲得する時も、メジャー移籍を決断する時も、本人の意思を尊重しながら協議し結論を出したと言います。

 

スポーツでも学問でも、指導者の支配下で命令一途行動することは、組織としては動きやすいかもしれませんが、本人の主体性や判断力は育たない結果をもたらし、最終的に真の実力を出し切れない人間を創り出す危険性を孕(はら)みます。チャレンジさせて失敗しても、その姿勢を認め、次の成功に向けたアドバイスを与える指導が、成長期にある生徒や選手には「チャレンジ精神」の喚起になる筈です。日本一のプロ集団、メジャー新人王に輝いた選手にもモチベーションを高める配慮を怠らない栗山氏の指導理念は、自らの選手時代の経験が背景にあると氏は語ります。中学や高校の指導者は、学習やスポーツにおける生徒の可能性を引出し伸ばすため、自らの指導力を高めるヒントに、「育てる力」を一読してみては、と感じた次第です。



校長 松田 清孝