「みんなちがって それでいい」これはリオパラリンピック、ロンドン世界陸上女子400m で銅メダルを獲得した、重本(旧姓:辻)沙絵さんの栄光への道のりを宮崎恵理さんが執筆し、沙絵さんご本人が監修した著書のタイトルです。
リオパラリンピックで一躍世界に名を轟(とどろ)かせた紗絵さんは、1994 年北海道に誕生しましたが、生まれつき右肘から先がない「先天性前腕欠損」でした。
3歳までは、やがて腕が生えてくると思っていたそうですが、弟が生まれた時、初めから両手があることを知って、お母さんにしがみつき「どうして手が生えてくるかもしれないなんて嘘をついたの?」と言って泣きじゃくり、お母さんの胸を何度も何度もたたいたそうです。
それからの沙絵さんは、持ち前の負けん気で何でもみんなと同じことができるまで努力し、鉄棒や片手リコーダー、靴ひもも簡単に結ぶことができるようになりました。
小学校5年から、担任の高田先生が指導するハンドボールチームに所属し、毎日夢中で練習しました。
仲間は右手の短い沙絵さんが受け取りやすい位置にパスを出してくれ、沙絵さんの技術は急激に上達し、中学校でもハンドボール部に入部し全国中学校体育大会(全中)に出場、高校は北海道を離れ茨城県のハンドボール名門校に進学し、1年生の時からレギュラーになりました。
高校3年生でインターハイ、国体に出場、前十字靭帯断裂など満身創痍の状態で、7mスローを決める活躍を見せました。
体育教師を目指して日本体育大学に入学しましたが、怪我のリハビリに時間がかかり、思うようにプレーできない沙絵さんに、パラリンピック挑戦の誘いがありました。
最初は「自分を障がい者と認められない」(文中引用)沙絵さんは、大学教授が紹介した卓球選手の映像で、沙絵さんと同じく右肘から先がないポーランドのナタリア・パルティカ選手が、目にもとまらぬスピードでラケットを振るプレーに感動し、自分も陸上でパラリンピックに挑戦してみようと決意したということです。
大学 3 年生で陸上競技に転向し、わずか4か月後の関東選手権 100m でいきなり日本記録を出し、一気に陸上競技の魅力にのめりこんでいきました。そしてついにリオパラリンピック出場を果たし、見事に銅メダルを獲得したのです。
沙絵さんは著書の中で「障がいは個性のひとつ。みんな違いがあっていいんだ。」と語っています。
とかく私たちは他人より劣っていないか気にして、消極的になりがちですが、沙絵さんは違います。右手が短いことを個性ととらえ、「他人にできることは自分にも出来る。」という強い信念で何にでもチャレンジし、結果を出してきました。
爽やかな笑顔が素敵なパラアスリート、謙虚で礼儀正しく、それでいて負けず嫌いで目標を次々に達成していく。
妥協のない彼女の強い信念と志、そして支えてくれる人々への感謝の姿勢は、これから夢の実現に向かって挑戦する中高生の皆さんに、夢と希望と勇気を与えてくれるはずです。
彼女の著書を是非お読みいただきたいと思います。

人は誰にも個性があります。
それは性格や能力、体格や体力、さらには障がいを持つことも沙絵さんの言葉どおり個性であります。
大切なことは、お互いの「ちがい」を認め合い、尊重し合い、理解し合うことだと思います。
2020東京パラリンピックに向け、さらに輝きを増す沙絵さんの後ろには、彼女を目標にして追いかける、若きアスリートたちがきっと大勢出てくるはずです。
チャレンジを続ける沙絵さんから目を離せなくなる、活躍の日が近づいて来ます。

校長 松田 清孝