バルセロナとアトランタの両オリンピック女子マラソンで、2大会連続のメダリストに輝いた有森裕子さんが、レース後のインタビューで「自分で自分を褒めてあげたい」と語った言葉はとても印象的で、今でもよく話題になる名言となっています。
「過去の努力を認め、現在の成果を褒め、未来の自分に期待する。」メダリストに相応(ふさわ)しい重みのある言葉でした。
本校の目指す「より高い文武両道」の実現には同様に、「認め・褒め・期待する」教育の実践が不可欠であると考えています。
さて「ピグマリオン効果」という教育心理学の用語をご存知でしょうか?
教育の現場ではよく使われ、教師期待効果とも訳されるもので、簡単に言えば「期待されていることを意識している子どもたちは、学習やスポーツで成績が向上する。」というものです。
アメリカの教育心理学者、ロバート・ローゼンタールが1964年に提唱した理論で、名前の由来は、ギリシャ神話を収録した古代ローマの「オウィディウス(変身物語)」の逸話からと言われます。
昔、ギリシャのキプロス島にピグマリオンという名前の彫刻の上手な王様がいて、自分が象牙に刻んだ理想的な女性の彫刻に恋をしてしまいました。
この彫刻像を生きた女性に変え、妻にしたいと熱烈に祈っているうちに、愛と美の女神アフロディーテがこの願いを聞き入れて、その彫刻に命を与え人間にしたという話が原典と言われます。
願望や期待を持つことで夢は叶うという教えでもあります。
このピグマリオン効果は、学校の先生や家族、職場の上司に期待される時だけに発現するものではなく、受験や部活動でも見られる「為せば成る」、「必勝」、「絶対合格」などの貼り紙で「内なる自分への期待」を表明することで意欲が高まり、努力を継続して夢の実現に近づくといった事例も、ピグマリオン効果の一つとされています。
子どものモチベーションが高まると、部屋の整頓や学習の要点整理、先生や監督の指導・注意を真剣に聞く真摯な態度が見られるようになり、出来るまで繰り返し努力する主体性が自然に表れるようになります。
一流と言われる学者や選手には、苦しい試練から逃げるのではなく、あたかもそれを楽しんでいるかのような雰囲気が感じられます。
それは、困難に耐え抜いた後の大きな喜びを熟知しているからに他ならず、ノーベル賞の青色LED開発者、天野浩名古屋大学博士の1500回の実験失敗は有名な話です。
子どもたちと日々関わる教育者や保護者は、常に子供たちが「認められ、褒められ、期待されている」ことを実感できる接し方や生活環境を、意図的・計画的に整えていく必要があるのではないかと思います。
中高生の中には、今の自分を変えたい、もっと上を目指して頑張りたいと思っている人も少なくないと思います。
いつも先生の指示を待ち、失敗を恐れて行動出来ず、自信がなくて不安だ、という意識ではマイナスのスパイラルから脱出できません。
プラスのスパイラルに転化するためには、足もとをしっかり見つめ、今何をすべきか、どのように行動すべきかをじっくり考えてみることも、時には必要なことだと思います。
努力により夢を手の届く目標に変え、やがて達成する。
そんな自分を期待しましょう。
そして自分自身に「元気を出せ、お前なら出来るぞ!」と励ましてあげましょう。

校長 松田 清孝