このブログをお読みの皆様の中には、心理学の実験で魚のカマスを使った「学習性無気力感」という話をご存知の方もおられるかと思います。
水槽に空腹状態のカマス(英名バラクーダ)を入れ、透明なガラス板で仕切った反対側に好物の小魚を入れます。
するとカマスは小魚めがけて襲い掛かろうと突進しますが、何度も何度も仕切り板に跳ね返され、傷つき、気力・体力を失い、やがて静かに動かなくなります。
何度挑戦してもどうにもならない強い挫折感とあきらめにより、仕切り板を取り除き目の前で小魚が泳いでいる状況になっても、もはや襲い掛かる意欲と勇気が消失し、放置すれば餌を目の前にして餓死するというのです。
これが「学習性無気力感」です。そこで、この水槽に別の元気な空腹状態のカマスを入れると、猛然と小魚を追いかけ、次々に食べ始めます。
するとこの光景を目にした餓死寸前のカマスは、突然蘇(よみがえ)ったように小魚を追いまわし、ついには捕獲して元気を取り戻すのだそうです。
私たち人間も同様に、失敗や不運が度重なると、目の前のチャンスに立ち向かう気力を失い、実験結果と似た状態になる可能性があります。
自信を無くし、あきらめかけている時に、元気な仲間の励ましに勇気を与えられ、やる気が湧き、自信を取り戻すという効果は、私自身の経験からも実感していることであり、互いに刺激し合う仲間の素晴らしさを象徴する美談は数多く存在します。

1992年、バルセロナ五輪柔道競技で、二人の日本人選手の友情が感動を呼びました。
金メダル最有力の古賀稔彦選手は、現地での吉田秀彦選手との練習中に、左膝靭帯損傷全治1か月の大怪我を負い、出場が危ぶまれました。
本番10日前の出来事です。
吉田選手は見事に金メダルを獲得しましたが、翌日の古賀選手の試合を思うと笑顔も見せません。
その時、古賀選手は「吉田選手のためにも何としても金メダルを取る。」と決意したと言います。
吉田選手の心遣いや金メダル獲得に心動かされ、怪我を押して自分も金メダルを目指す勇気を奮い立たせ、古賀選手は膝の負担を計算しながら、痛み止めの注射を何本も打って戦い抜き、決勝では僅差の判定で金メダルを勝ち取りました。
会場で男泣きしながら強く抱き合う二人に、世界が感動の涙を流し称賛しました。
私自身、古賀選手を講師にお招きした機会が何度かあり、この時のお話を直接お聴きするたびに新鮮な感動を覚え、後世に語り継がれる逸話・美談であると感じています。
二人の選手には「元気・やる気・勇気・本気・根気」の全てが高いレベルで昇華されており、夢の実現に向けてこれから立ち向かおうとする中高生の皆さんには、是非強い絆で結ばれた友情や先輩・後輩の在り方、そしてスポーツマンの気概として、大いに参考にしてほしいと思う、リスペクトに値するオリンピアン物語であります。
メダリストのお二人に改めて敬意を表しますとともに、2020東京オリンピック・パラリンピックをはじめとする各種大会での活躍が期待される若きアスリートたち、さらに次代を担う中高生の皆さんに、心からのエールを贈ります。

学校長 松田 清孝