去る3月の卒業式で、卒業生代表の答辞の中に「最後の全校朝礼で校長先生が話してくださった『明けない夜はない』という言葉が心に響きました。」という一文がありました。たしかに、3年生にとって最後となった2月の全校朝礼で私は「明けない夜はない」という言葉を引用し、今がどんなにつらく長い夜であっても、必ず明るい希望に満ちた朝が来る。そのことを信じて頑張ろう、と全校生徒に呼びかけました。

 

 この言葉は、シェイクスピアの四大悲劇の一つ「マクベス」第四幕におけるマルカムの台詞(せりふ)が由来とも言われますが、私はその由来は全く意識せずに使用しています。関心のある方は調べてみてはいかがでしょうか。因みに小説家吉川英治氏はこの言葉を座右の銘にしておられたそうであります。

 

 さて、答辞は「これからも高校生活で経験したような大きな危機や変化に出会うと思います。私はその際、周りの人を助け、笑顔にし、支えられるような人間になりたいと思うようになりました。」と続き、普段恥ずかしくて言えなかったと正直に詫びながら、自分のお父さんとお母さんへの感謝の言葉で締めくくられました。

 

 飾られた言葉ではなく、卒業生の本音の言葉は、会場にいた他の卒業生や保護者の皆様にも届いたものと思いますし、私も心が洗われる思いがしたことを覚えています。

 

 コロナ禍で、授業はもとより学校行事、部活動も制限され、自粛を余儀なくされる日々が続く中で、多くの生徒が無念の思いやストレスを抱え、自分との闘いを続けていたと思います。生徒の楽しみや期待に応えたくても叶わない、校長として忸怩(じくじ)たる思いの日々の連続でした。そんな時、短い言葉で生徒にエールを送りたいと思い、選んだ言葉が「明けない夜はない」でありました。この言葉は生徒だけでなく、先生方にも、そして誰よりも私自身に言い聞かせていたのかもしれません。

 

 修学旅行は海外から国内に変わり、時期も変更しての実施となりました。スキー実習は直前の感染急拡大により、中止を余儀なくされました。

 

 感染は誰を責めることも出来ませんし、誹謗中傷など決して許すことは出来ません。

 

 一方で、このような厳しい環境の中でも、生徒は地道な努力を続け10を超える部活動が全国大会に出場し、ライフセービング部は全国三連覇や個別の種目で優勝者を多数出したほか、他の部活動も「日体大荏原」の存在感を全国に示してくれました。

 

 さらに硬式野球部も東京都春季大会で強豪校を破って勝ち進み、34年振りのベスト8入りを果たし、20年振りの夏の大会シード権獲得という快挙を成し遂げてくれました。 

 

 進路面においても、一般受験による難関大学合格者を二年連続で多数輩出しています。全国私立高校初の「学校情報化先進校」として、全国トップレベルのICT教育と授業の充実、校内塾の活用等により、生徒の学びの姿勢が大きく変化しています。

 

 この先、まだ気の抜けない日々が続くと思われますが、「ピンチをチャンスに変える」強い意気込みで、かつての日常を取り戻すため、「明けない夜はない」という信念を持ち、みんなで力を合わせ、勇気を持って立ち向かって行きたいと思う毎日です。