数々の国家的偉業を残され、本校初代校長でもあられます加納久宜公に纏わる「ゆかりの地」を巡り、その足跡を辿る研究グループの皆様が、10 月 20 日に本校を訪問されました。正面玄関の加納公の胸像や校舎を見学していただきました際、私から加納公と本校に関わる下記の紹介文を提供しましたので、本校生や関係の皆様にもご一読いただければと思い校長ブログに加えました。
昨年、令和2年2月に千葉県一宮町で予定された「加納公没後 100 年墓前祭」は、新型コロナウィルス感染症拡大のため中止されました。計画では「加納公と荏原高校」と題する校長講演が予定されましたが、残念ながら実現することはありませんでした。その際用意いたしました内容の一部ですが、加納公の教育理念を引き継ぎ「人を育てる」教育を実践する、荏原高校の教育活動の一端をご紹介申し上げます。
加納公の業績につきましては私が改めてご紹介するまでもないことでありますが、我が国の農政改革、教育改革、さらには県政改革や信用金庫の創設等において、世界の趨勢に鑑み、国の根本をなす体制づくりに私財を投じ、全身全霊で取組まれた「改革の人」として、尊敬の念を禁じ得ないところでございます。教育に関しては、文部省、そして岩手師範学校長を歴任され、1879 年(明治 12 年)31 歳で赴任された新潟学校は大規模校であり、生徒のストライキが頻発する難関校であったため、加納公は「教育界の名誉のため、400 人や 500 人程度の学生を放逐するくらいは朝飯前のことである。」と豪語されたと、城南信用金庫加納公研究会冊子に掲載されております。当時の教育改革とは、それ程の覚悟なしには達成できないものであったのでありましょう。
その後、熊谷裁判長を経て鹿児島県知事に就任。県庁(県政)改革に 6 年 8 ヵ月携わられ、1900 年(明治 33 年)退任。翌年には経験と実績を評価され日本体育協会の会長に就任されました。1904 年(明治 37 年)優秀な体育教員を育てる実習校として、日本体育大学荏原高等学校の前身である「荏原中学校」の設置認可を得、翌年開校いたしました。こうして加納公を初代校長に迎え誕生した本校は、学校創立 117 年目を迎える長い歴史を刻んでまいりました。
現在では学校のホームページに、学校経営方針や年間事業計画を掲載し、内外に情報発信する時代となっておりますが、加納公が実践されたような教育改革に不退転の決意で臨む「有言実行」には、大きな困難やリスクが伴うものであります。加納公の偉大さは「義を見てせざるは勇なきなり」の理念とその実践力にあると私は考えます。リーダーの覚悟が教職員に勇気をもたらし、学生や生徒の心に火を灯し、大きなうねりを伴い、社会をも突き動かす原動力になったことでありましょう。
本校は 10 数年前に学校存続の危機に遭遇しましたが、徐々に安定的な定員確保ができる状況になりました。4年前に校長として赴任した私は、今こそ初代校長の加納公がお示しになられた「知・徳・体」のバランスの取れた「より高い文武両道」を実現する時であると判断し、「荏原・イノベーション・プロジェクト」(EIP 計画)と命名した教育改革案を掲げ、全校を挙げて取り組む体制づくりを推進してまいりました。こうした取組の背景には、加納公が創設された本校の危機的状況に対峙し、学校存続に意を決した前校長や全面的なご支援をいただいた、城南信用金庫の要職にあられました五十嵐定夫氏をはじめとする、多くの本校同窓生諸氏の献身的なご尽力があったことを申し添えなくてはなりません。
加納公の教えを基軸にした教育活動の中で、大きな変化が生まれ、規律正しい礼節、真剣な授業態度が確立され、荏原の可能性の高さを証明する成果が現れています。スポーツ面では、世界大会やアジア大会での優勝者、全国大会に 10 競技を超す部活動が出場し、毎年全国優勝者を複数輩出するという、歴代最高の結果が出ています。学習面では、ICT 教育の充実、校内進学塾設置等により確かな学力の育成が可能となり、難関国公立大学や難関私立大学への一般受験合格者が増加し、日本体育大学に 5 年連続で 100 名超の入学者輩出など、設置校の拠点校として存在感を高めています。学校行事では生徒の主体性を重視した体育祭や文化祭の企画運営、仲間と協力して課題を解決する協働性の育成により、生徒会役員や体育委員が優れたリーダーシップを発揮する中で、全校生徒の自己肯定感が高まり学校全体が活気づいています。
加納公の教えを根幹に据えた「求めて学び・耐えて鍛え・学びて之を活かす」をキーワードとして、勉強やスポーツに自ら積極的に取り組み、苦しい事から逃げずに立ち向かい、仲間と協力して克服しながら、身につけた知識や技術・能力を生活の中で活用し、将来は世のため人のために活かすよう、教育活動全体を通した指導を展開しています。現在、我が国が求める「次代を担う理想の人物像」は「主体的に行動し、仲間と協働的に課題解決を図り、思考力・判断力・表現力を身に付けた人材」と示されておりますが、まさに本校の実践する「人づくり」こそ国の方針そのものであると言えましょう。
少子高齢化やグローバル化の急激な進展、外国人労働者の増加、AI や ICT の発達など、現代社会が大きく変化している中で、信頼され、期待されるコミュニケーション力の高い人材を輩出し、地域とともに発展する学校づくりを目指すことは、まさに加納公の本校創設の理念そのものであると言えるでありましょう。さらに本校は、全国私立高校第 1 号となる「学校情報化先進校」に認定され、全校生徒が一人一台の iPad を持ち、授業や学校行事、部活動にフル活用し、情報管理等において、全国で最も先進的な ICT 教育実践校として、公的機関から認められております。コロナ禍が急激な感染者減少の状況を見せる中で、今後も加納公の教えを礎にして、「より高い文武両道」を実践する名門校を目指し、教職員・生徒さらに学校関係団体と力を合わせ前進してまいる所存です。
皆様には、今後もご指導・ご鞭撻を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。